匂い
※現パロ 年齢操作 飲酒表現(間接的)
帰りたい。
気の置けない友人同士での飲みの席。ジェイドは緩い空気にかまけ、カリムの肩に酔ったフリをして凭れかかっていた。
(寝床に帰れるのはいつでしょう)
寝床というのはカリムの寝床で、たまにジェイドの寝床でもある。
(常に僕の寝床でもいいのですが)
あの部屋にある布という布に、いつも朝に飲むお気に入りの紅茶のフレーバーをつけるのが夢だった。そうして柑橘の匂いに塗れた部屋にカリムを閉じ込めて、今度は彼に香り付けをする。簡単に抜けないようにしっかりと。
なぜかって、人たらしの海獺が万人の思考判断を鈍らせ、おびき寄せる匂いを撒き散らしているせいで、ジェイドはいまだ寝床に帰れず、本懐を果たせていない。つまり迷惑を被っているからだ。
考えたら腹が立ったので、ジェイドは後ろ手についたカリムの手を覆う。
「んっ?」
ニットに包まれた肩がわずかに焦りを伝えた。 骨ばった手を握りこんだり指先を摘んだりしていると、従順だったそれが逃げようとしてきたので掴み直す。
(早く帰りましょう?)
賑やかな席が嫌いなわけではない。今はカリムとの時間に興が向いているだけ。 指の股を開かせ皮膚を擦り付けていると、指の側部が閉じた。ざり、と髪どうしが擦れる音がして、つむじに生の皮膚が触る感触。
「今日はもう限界か?」
密やかな声で尋ねられる。絞られた声にはどこか甘えたい雰囲気もあって、ジェイドは同じ声で是を返した。
「帰るか」「はい」「ごめん、もう帰るな。ジェイドも連れてく」
カリムが声をかけると、了解だとか、歯磨きして寝ろだとか、もうー?だとか。酔っ払い達が口々に言う。
「これ以上いると持たないんだよ」
カリムは慣れた仕草で飲み代を送金した。
「また飲もうな!」
カリムはさわやかに部屋を出る。もうすでに寝床のことしか頭にないジェイドを指に引っ掛けたまま。その後に待つ行為なんてひとつも匂わせないで。