いたずら

(生放送後に気が狂ったように書いたやつ。
投稿後に「変身薬は貴重」「動物への変身はご禁制」などの公式設定を得て震え上がったのはいい思い出。ふんわり読んでください)

 普通に考えれば当たり前の話だ。
 人魚から人間に変わる薬があるのなら、他の種族にも変わる薬もあるだろう。魔法薬学には明るいつもりでいたが、本物を目の当たりにするまで実感が湧かなかった。ジェイドは目の前に現れたカリムをじとりと観察する。
「今年のハロウィンパーティで使おうと思ってるんだ!」
 そう言ってカリムはにかっと笑った。頭の上で真珠色の髪と同じ色の耳――形からしてイヌ科だろう――が揺れた。
「耳の位置まで移動しているとは」
 元々耳があった位置は綺麗に塞がれているようだった。ジェイドはよくここまで綺麗に変わるものだ、と自分のことを棚に上げて感心してしまう。腰を見ると、白い尾がゆらゆらと動いている。
 ううん、これは。とても、とても興味深い。
「カリムさん、お願いがあります」
「おう、なんだ?」
「触らせていただいても?」
 おそるおそる聞くと、カリムは二つ返事で快諾した。
「失礼します」
 ジェイドはまず、耳の後ろに手を伸ばした。
 毛足は短く、天鵞絨のような手触りがする。若干温いのは血が通ってる証拠だろう。ついついと指を上下させる。
「なんかくすぐったいなあ!」
 手の下でカリムが身を捩った。耳に神経が通っているのかも、とジェイドは推察する。
「ふふ、イヌ科でも耳に感覚はありますからね」
 親指と人差し指で薄い耳を摘むと、カリムは無邪気にきゃっきゃと声を上げた。後ろでモップのような尻尾が楽しそうに揺れている。
 これはいい、彼にはいつも驚かされてばかりいるのだ。ちょっと仕返ししてあげようと、ジェイドは指を耳から下へ動かす。
「イヌ科の生物は、耳で感情を表すのだそうで」
 ジェイドは耳の真ん中、カリムの頭に手を置いて、優しく耳を撫でる。予想外のスキンシップにビクンと耳を前に向けたカリムだが、頭を撫でられる気持ちよさに目を細めた。何度も撫でると白い立ち耳が次第に倒れていく。
「諸説ありますが、耳が倒れている時はリラックスして満足しているという話です」
「オレ、頭を撫でられたの久しぶりかも」
 そうだろう。だって彼はいつも撫でる側の方にいるのだから。特に寮生を褒めたい時に頭を撫でる姿を何度も目撃している。
「意外と嬉しいもんだなあ!」
 カリムは屈託なく笑った。さっきまで活発に動いていた尻尾を垂らし、左右に小さく振っている。愛らしい姿に気分が高揚した。
「ちなみに、耳の付け根には沢山ツボがあって、マッサージすると気持ちいいんだそうです」
 ジェイドの大きな手がカリムの耳の付け根を優しく揉みほぐす。カリムは満足そうにくふーっと息を吐いた。
「ホントだ、コレきもちいな……」
 リラックスしてふにゃふにゃしてきたカリム。くすぐったがりのカリムなのでちょっと悪戯してあげようかと思ったのだが、予想外に喜ばれた。結果的に仕返しはならなかったが……まあこれはこれで。ジェイドは思い直してカリムの眉間に手を伸ばす。
「ここもリラックスできるそうです」
「うわ、ほんとだ」
 その後、おおよそ犬が好む場所を撫でたところでジャミルがカリムを迎えに来た。2人で薬を飲んだはいいが、シルバーに見せてくる、と実験室を出ていってしまったらしい。ジャミルはすぐ後を追おうとしたが自分も耳が生えたままなのに気付き、獣人化を解除してから出てきたそうだ。
「……なんでこいつ、こんなふにゃふにゃなんだ?」
 ぽやぽやした様子の主人を見て物凄く何か言いたそうにしていたが、カリムを元に戻すことを優先したようだ。カリムの手を引いて実験室に戻っていく。

 次はちゃんと悪戯になるまでしてあげよう。ジェイドは月末が楽しみになった。