泣き寝入りなんてない

 Twitterでネタだけ出したものが奇跡的に作文になったので
 七夕の物語パロです。織姫♂:カリム君、牽牛:ジェイドさん、天帝はモブです。カリム君のリアルとーちゃんとは関係ありません。
 よりなんでも許せる方のみよろしくお願いします。
 
 
 
 
 むかしむかし、あるところに天帝の子どもがおりました。明るく素直で踊りの上手な天帝の自慢の子どもでした。
 宇宙を統べる神様の子どもであれど、遊んで暮らしているわけではありません。数ある仕事のうち、子どもは神様の着物の布を用意する仕事が与えられておりました。子どもは機織りがたいそう得意……というわけではなく、その実力は中の下ほど。小さな機織り機で机の飾り布を織るのがやっとな程でした。
 しかしその代わり、彼は商才に溢れておりました。
「神様の着物の布をひとりで織るのは大変だから手分けしよう。手伝ってくれる人にはお給料をたくさんあげたい。そのためにはどうしたらいいかな?」
 子どもは人を集めるために会社を立ち上げ、手先の器用な者を雇って機織りの仕事を教えました。職人たちが自分の力量を超えてくると、今度はもっと機織りに詳しいものを呼んできて教えを請います。雇われた者たちは安定した収入と職場環境でのびのび働き、めきめきと機織りの腕を上げていきました。
「今日も頑張ってくれてありがとう。こんなに素敵な布を作り出せるみんなはオレの自慢の仲間たちだ」
 子どもは大好きなみんながひとつひとつ、心を込めて作る布が大好きでした。子どもは織られた布を大げさなほどに褒め、職人たちに感謝を伝えます。
「あんな風に言われちゃ、頑張らないわけにはいかないよね」
「今日も神様達とご子息様のために頑張ろう」
 こうして着物の布の生産力が格段に上がり、神様たちが服に困る心配がなくなりました。生産にちょっと余裕が出た分、ハレの日用に作らせた派手な布の評判も上々です。
「よーし! もっとうちの織物の魅力を知ってもらおう!」
 子どもは自ら神様たちの元に赴き織物を売り込みました。特に評判が良かったのは織った布を纏って踊る商法で、煌びやかなものを愛する神様たちにとても喜ばれました。色とりどりの織物を纏い舞姫のように踊るため、いつしか子どもは男の身ながら「織姫」と呼ばれるようになりました。
「商売は順調か?」
 天帝は急いで食事を摂る織姫に話しかけました。
「うん。神様たち、みんな喜んでくれてるよ」
「そうか。明日はどこに出かけるんだ?」
「明日は東の神様に新作の織物を見せに行って、明後日は養蚕の農家さん家に行ってご馳走になってくる。それからその次は……」
 忙しそうな織姫に、天帝はそっと溜め息をつきました。
 最近、織姫は仕事に打ち込むあまり、自分自身のことに関心が向かないようです。休む暇なく働き続け、辛いことを誰かに吐き出している所を見たことがありません。集団の長に孤独は付き物。天帝は彼が疲れと寂しさからポキリと折れてしまわないかと心配だったのです。
「……寄り添ってくれる者を探してあげないといけないな」
 天帝は織姫に伴侶を探してあげるために腰を上げました。
 
 
 
 ある日、織姫が商談のために川の向こうまで出向いた時のことです。
「長閑だなぁ。この辺は畜産が盛んなんだっけ」
 穏やかな風が長く伸びた牧草の葉を揺らします。このあたり一帯は肥沃な土壌から牧草がよく茂り、牛たちは豊富な餌を食べながら思い思いに過ごしていました。
「ここの家は広い土地で牛を育てているんだな」
 織姫が柵の近くで足を止め、母牛と戯れる子牛に目を細めていると、近くの小屋から背の高い男が出てきました。
「おや」
「あ、人がでてきた。こんにちは!」
 織姫は元気に挨拶しました。
「あまり牛の傍で大きな声を出してはいけませんよ。牛たちが驚いてしまいます」
「ああっごめんな。お前もびっくりしたか?」
 織姫は近寄ってきた男に詫びました。牛たちにも声を掛けると、寄ってきた子牛が織姫の手を舐めました。
「人懐っこいんだな」
 織姫が喉元をかいてやると子牛は気持ちよさそうに首を伸ばしました。
「手馴れていますね」
「家に動物が大勢いるんだ。世話する人も何人か。お前はひとりで牛たちの世話をしているのか?」
「はい、僕ひとりで営んでおります。たまに兄弟にも手伝わせますが」
 男は愛想良く答えました。
 織姫は男を気に入りました。牛たちものびのび暮らしていて、男に大切にされていることがわかります。
 なんだか仲良くなれそう。織姫は直観的にそう感じました。
「なあ、またここに遊びに来てもいいか? えーと、」
「牽牛と申します。今日はもう行ってしまわれるのですか?」
「うん、向こうの都に商談に行かなくちゃ」
「そうですか……もう少しお話したかったのですが、残念です」
「ありがとう、また今度話そう」
 織姫はにっこり笑うと目的の都に向かいました。
 織姫が道の向こうに消えた後で、牽牛はほうっと詰めていた息を吐き出します。
「ようやくお話できました。ここに土地を借りて正解でしたね」
 実は牽牛は、以前から織姫のことを知っていました。
 天帝の子どもが変わった方法で織物を売り込んでいるという噂を耳にし、かねてより牽牛は織姫に興味を持っていました。牽牛は織姫とお近づきになるために一帯を牛耳る昔馴染みに頼み込み、担い手のいなかった牛飼いの仕事を請け負わせてもらいました。
 大きな道沿いに農地を借り受け、織姫の目につきやすいよう周りの土地を脅して巻き上げ……いえ、交渉して手に入れました。興味を持ってもらえるようわざわざ道側に放牧場を作ったおかげで、織姫を平和的に足止めすることに成功しました。
「近くで見るとより素敵でした」
 牽牛は織姫が道を通りかかる度、その華やかな姿を遠目で見ながら想いを募らせていました。織姫の評判を聞いてこっそり神々の宴に潜り込み、自分では思いつかないような方法で神々の歓心を買う彼を見てからというもの、牽牛の中で織姫の存在が日に日に大きくなっていました。
 きっと僕たちは誰よりも仲良くなれる。牽牛はそう考え、織姫と仲良くなる機会をうかがっていたのです。
「次はお帰りの際にお声がけしましょう」
 牽牛は近寄ってきた子牛の頭を撫でました。
 これが織姫と、後の伴侶である牽牛の出逢いでした。
 
 
 
オチが思いつかないのでここまで